Y&E LAW・CONSULTING 上海外安伊企業管理諮詢有限公司

今回も、クビ切りの話の続き。前回は、中国で従業員との労働契約を解除する5つの方法のうち、(1)従業員自ら自主退職、(2)契約期間満了、(3)合法的に解雇、(4)違法解雇の4つを説明した。今回は、日系企業が最も良く使う方法でありながら、一番面倒な「(5)協議による労働契約解除」、について解説しよう。

 

まず、「協議による労働契約解除」をしようとする場合、当然ではあるが従業員の同意が必要となる。

 

これまで会社とよい関係を築いてきた従業員でも、実際に会社から労働契約解除をちらつかされたとたんに、コロッと180度人格が変わるので注意が必要だ。今後も会社から給料をもらいたいと思えばこそ、ニコニコしながら会社の方針に従い、上司である日本人総経理等にペコペコするのであって、明日から会社との縁が切れることになれば、話は別だ。会社との縁が切れる前に、できるだけ多くのカネを会社から毟り取ってやろう、と個人の利益をむき出しにしてくるのだ。

 

カネで解決できる従業員はまだいい。カネではなく面子等の問題で、会社や、在職中から気に入らなかった上司等に何か報復しないと腹が収まらないと、場合によっては公安に捕まることも厭わないと断言するアブナイ従業員もいるので、注意が必要だ。

 

狙いがカネにしろ、カネでないにしろ、コロッと態度を変えた従業員が会社との闘いで勝利するために取る戦略は、大きく分けて2つある。1つは「自分個人と会社の問題ではなく、従業員全員対会社の問題にする」こと。もう1つは「会社の弱みに付け込む」ことだ。

 

最初の戦略は、「自分個人対会社」という対立構造では、明らかに交渉上不利なので、周りの従業員を味方につけて「従業員対会社」の問題にすりかえるという作戦だ。どんな従業員でも、会社への不満の1つや2つは必ず持っている。「会社がアナタを解雇するらしい」など、従業員の利益に直接つながる、あることないことを周りの従業員に吹き込んで、ストライキ等を起こし会社を困らせることで、よりよい条件で、自分個人の問題の解決を図るという作戦だ。

 

もう1つの「会社の弱みにつけこむ」という戦略。中国で、違法行為を自ら進んでは行っている日系企業は皆無だと思われるが、例えば法律に従って「毎月の残業時間を36時間以内に抑えているか」等まで含めると100%合法的に会社運営を行っている日系企業も逆に少ないと思われる。特に、部門でいうと、「人事・総務」、「税関」、「税務・会計」などの従業員は、会社のグレーな取引をいろいろ知っている可能性があるので要注意だ。こういう戦略を取る従業員は会社を去る際に、「私、いろいろ知っていますよ(=経済補償金をいっぱいくれないと、政府機関に密告しますよ)」と、言って法律で決まっている以上の補償を要求する。これまで自分で率先して行ってきた不正行為を、解雇される段階になったら、さも会社の責任のような主張をする従業員がいるので開いた口がふさがらないのだが、これが現実だ。

 

従業員側がこのような対応を取ってくる以上、会社側もリスクを最低限に抑えるために、用意周到に準備をしてから、クビを宣告する必要がある。では何を準備すべきなのかについては、また次回書くことにしたい。

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